もくじ
少し吃音(きつおん)の話をさせてください。
※この文章は約2分で読み終わります。
お読みいただきありがとうございます。
私は、東京吃音改善研究所の畦地(あぜち)と申します。
東京都国分寺市で吃音の支援を行っています。
1年に1回、この時期に吃音(きつおん)の話をさせていただいています。
100人に1人いる吃音症
吃音(きつおん)とは、言葉を流暢に話せない言語の障害です。全世界で文化圏を問わず100人に1人はいると言われています。
吃音があると、話す時に言いたい言葉がつっかえて出てこなかったり、言葉の出だしの音が連続して話してしまったりします。
吃音の原因は、まだよくわかっていないところも多いのですが、子供の頃からの吃音は体質的な要因が多いと言われており、大人になってからストレスなどで吃音になる人もいます。
100人に1人ですから、皆さんも学生時代に1人くらいは会ったことがあるかもしれません。
または、本人が症状を見せないようにしていてあなたの近くにいても気づかなかったかもしれません。
このような吃音のことをわかってくださいという日が、今日10月22日の国際吃音啓発の日です。
国際吃音啓発の日は、国際吃音者連盟と国際流暢性学会によって1998年に定められました。
あなたは「ありがとう」が言えますか?
突然ですが、ここで一つ質問をさせてください。
あなたは「ありがとう」が言えますか?
誰かに何かをしてもらった時、すぐに「ありがとう」や「ありがとうございます」と言えますか?
多くの人は簡単に「はい」と答えるのではないかと思います。人に何かをしてもらったら、お礼を言うように小さい頃から親に教えられますよね。
しかし、この質問は道徳的な話ではありません。
吃音のある人は、何かをしてもらっても「ありがとう」と言えないことがあります。
念のために、当たり前ですが、それは礼儀が欠けているわけでも教養がないわけでもありません。
吃音のある人にとっては、挨拶などの定型文や自分の名前を言う時に、発しようとした言葉が出てこないことが多くあるのです。
そんな時、まわりの人は「あれ?どうしたのかな?」と思うかもしれません。
本来言うべきタイミングで、求められる言葉がそこにない時に、多くの人は「??」と思うでしょう。
そのとき同時に、吃音当事者の方々もスムーズに言いたいのに言えない「苦しさ」「もどかしさや恥ずかしさ」を抱えています。
自分の名前や挨拶のような「当たり前に誰もが言うこと」が言えない時、私たち吃音当事者の多くはとても強く劣等感を感じます。それが自己紹介やスピーチのようかオフィシャルな場面であればあるほど、とても辛いものです。
当たり前のことができない辛さは、その後の人間関係や自分の評価なども含め劣等感を抱えることにつながります。
吃音の悩みは見えないことがあります
ところで、よくテレビなどでは「裸の大将放浪記」や数年前に福山雅治さん主演の「ラブソング」などで扱われる吃音(言葉がどもる症状)のイメージがあるかと思います。
「ぼ、ぼ、ぼ、僕は」などのように言葉を連続させながら話したり、話す時に言葉がら出てこない苦しそうな姿が描写されています。
しかし現実には、そのような人ばかりではなく、出来るだけ吃音のことを隠したい人がたくさんいます。
前述した「名前が言えない」「挨拶が言えない」などの劣等感は出来ることなら経験したくないし、他人に見せたくないものです。
そのため、症状が出ないようにうまく工夫したりして吃音を見せないようにしようとする人はたくさんいるのです。
当然ながら自分が吃音であることを伝えたくないですし、周りから奇異な目で見られるのではないかと考えてしまうのです。
当事者の方々の多くは、吃音を知られたくないですし、吃音をコンプレックスに感じています。
しかし、あなたもここで一度想像してみてください。今日、急に言いたい言葉が出てこなくなったら、どうしますか?そのような状況になれば、不安を感じるでしょうし症状が続けばコンプレックスを感じるのではないでしょうか?
ここでご理解いただきたいことは、吃音は当事者のせいで起きているわけでもないし、言いたくても言葉を言えない苦しさを抱えているということです。
吃音のある方々の見えない辛さを少しでもご理解いただき、もし話づらそうな人がいたら、言葉が出るまで自然に待って聞いていただければと思います。
吃音があっても吃音を気にせずに楽に話せたら、吃音を持つ人は本当に楽な気持ちになれるでしょう。
また、私はこれまで吃音のコンプレックスを克服するために、人の何倍も勉学に励んだり、仕事に人一倍取り組まれたり、コンプレックスを乗り越えるために陰で努力してきた人をたくさん見たことがあります。
吃音に悩む人は学校や職場において様々な形で人知れず苦悩を抱えています。吃音のために不遇な経験をされている人も少なくありません。
吃音が正しく認知されることを願うと共に、人知れず吃音に悩む人が、誰よりも素晴らしい自分の人生を生き抜いていかれることを心の底から願っています。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
東京吃音改善研究所
畦地泰夫