発達障害

吃音は発達障害なのでしょうか?

吃音は発達障害なのでしょうか?この記事では、発達障害と吃音の関係について、わかりやすく説明していきます。

 

吃音は発達障害なのか?

吃音は、日本国内における発達障害者支援法という法律で発達障害と定義されています。

厚生労働省が示す下記の図の右下の部分に「※このほか、トゥレット症候群や吃音(症)なども発達障害に含まれる」との記載があります。

 

引用:発達障害者支援法の改定についてー厚生労働省

 

この図の中に吃音が記載されていますが「吃音は発達障害者支援法の対象ではあるが、発達障害ではないのでは?」という声も上がってきそうです。

しかし、吃音は支援の対象だけではなく発達障害として定義されています。

 

どのように定義されているのか?

発達障害者支援法の第二条に発達障害を定義が記載されているのですが、その中で吃音(政令で定めるもの)は発達障害と定義されているのです。

(定義)
第2条  この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

発達障害者支援法(平成16年12月10日 法律第167号)(抄)

ここで言う「その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」の中に吃音症は含まれています。

 

政令で定めるものとは?

政令で定めるものとは「法の対象となる障害は、脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもののうち、ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)における「心理的発達の障害(F80-F89)」及び「小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害(F90-F98)」に含まれる障害です。

 

小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害(F90-F98)とは?

小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害(F90-F98)とはWHOによるICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)のことで、F98.5に吃音症と記載されています。

厚生労働省に電話でも問い合わせをしたところ、

「吃音症は、ICD-10の中のF98小児<児童>期及び青年期に通常発症するその他の行動及び情緒の障害ですので、発達障害として定義されています。吃音=発達障害という解釈で構いません。」

とのご回答をいただきました。

引用:文部科学省「発達障害の法定上の定義」のページ

 

簡単に説明すると

吃音は発達障害支援法の「政令で定めるもの」に該当します。

政令で定めるものとは、ICD-10(WHOが公表している国際疾病分類と呼ばれるもの)に含まれるものです。

つまり、日本ではICD-10を基準に発達障害の定義をしていて、吃音症は ICD-10に記載されているため、吃音症を発達障害として定義しているということです。

 

吃音が発達障害ということに対する違和感がありませんか?

吃音は発達障害という側面以外に様々な捉え方もできるため、吃音=発達障害と言ってしまうことに違和感を覚えませんか?

そうです。吃音があっても下記に解説する他の発達障害を持っていない人からすると、「私は発達障害ではない」と考えるのも当然のことだと言えます。

また、大人になってからの吃音もありますし、脳の損傷による吃音もあります。そのため、ICD-10で定義されている範囲以外の吃音については、発達障害という捉え方には該当しない人もいます。

吃音は、世間一般的には発達障害と捉えられていませんし、多くの人は「どもる症状」とだけ認識しています。

そのため、幼少期からの吃音症は定義上は発達障害とされているだけで、吃音症には様々な捉え方があるとご理解ください。

 

そもそも発達障害とは何か?

発達障害の特徴については、下記に述べていきますが、中でも発達障害の特性が強い人は他人とのコミュニケーションの中で、何かしらの「困難さ」や「違い」を感じることがあります。

周囲の人と異なったコミュニケーション上を感じる人は、「私は発達障害かも?」と考えてしまうこともあります。

実は「普通」と「発達障害」の間の境界線を引くことはとても難しく、診断も簡単ではありません。発達障害の特徴がある人でも、障害とは言い切れないグレーゾーンの方もたくさんいます。

発達障害は、病気や障害というよりも、個性の延長線上にあるものです。例えば、忘れ物が多い、落ち着きがないといった「ある特性」の度合いが強かったり、複数の特性を持っていたりします。

発達障害の種類

主な発達障害の種類には、自閉症スペクトラム、ADHD(注意欠陥多動性障害、または注意欠如多動性障害)、SLD(限局性学習障害)などがあります。

自閉症以外は知的な遅れがないことが多く、自閉症の中でも高機能自閉症には知的障害はありません。

発達障害の原因

発達障害の原因は、脳の働き方にあります。発達障害の人は、生まれつき脳の機能に通常と異なっている部分があり、「特定の機能が十分に働かない」ということが起こります。

国立障害者リハビリセンターのページに発達障害を理解するために「各障害の定義」が掲載されいます。

 

自閉症スペクトラムとは

自閉症(軽度なもの、典型的なもの)と、以前はアスペルガー症候群と呼ばれていたものを含めて自閉症スペクトラムといいます。

スペクトラムとは、連続体という意味です。自閉症の特性の現れ方には差があり、違うように見えても、基本的なところでは連続しているという考え方です。

また、発達障害そのものをADHDや学習障害などで区別するのではなく、連なっていると考える発達障害スペクトラムという考え方もあります。

自閉症スペクトラムの主な特性は、以下のようなものがあります。

 

・社会性の障害

人との関わりにおいて、その場にふさわしい言動を行うのが苦手

 

・コミュニケーションの障害

相手の雰囲気などを察知することや、気遣うことが苦手

 

・想像力の障害

日常の課題を乗り切るために、柔軟に考えたり想像したりすることが苦手

また、これらの特性を持ちながらも、優れた能力を持ち合わせている場合があります。例えば、一度聴いた曲をピアノですぐ演奏できたり、図鑑などを見てたくさんの情報を記憶したりする能力です。

自閉症スペクトラムは、特性が明らかにわかる場合もあれば、わからない場合もあります。生きづらさを感じながら、成人になってから気づく人も多いのです。

 

ADHD(注意欠陥多動性障害)とは

ADHDは、Attention Deficit / Hyperactivity Disorder(注意欠陥多動性障害) の略です。主な特性としては、多動性、不注意、衝動性があります。

多動性の特徴は、じっと座っていることができなかったり、しゃべりだすと止まらななかったりなどの行動が見られます。

不注意の特徴は、いつもボーッとしていたり、必要なものをなくしてしまったりする行動が多くみられます。

また、外からの刺激で気が逸れるので集中できなかったり、単純名計算ミスなど、細かいところに注意を払えなかったりします。

衝動性の特徴は、順番を待つのが難しかったり、思いついたことをすぐに話してしまったりする行動が見られます。感情や欲求のコントロールが苦手で、優先順位がつけられず計画が苦手という特性もあります。

多動性、不注意、衝動の3つの症状全てが現れるのではなく、どれか一つだけが顕著に現れることもあります。また、いくつかの症状が同じくらいの割合で現れることもあります。

 

LD(学習障害)とは

LDとはLearning Disabilities の略で、日本語では学習障害と訳されています。

知的な遅れはないのに、学習上の「読む」「書く」「計算する」「聞く」「話す」「推論する」能力の一部に困難を抱えています。

なんらかの脳の機能障害によるものと考えられていますが、原因はよくわかっていません。症状は合併しやすく、複数の障害が併さっていることもあります。

周りの人の適切な対応と支援を受け、特性に応じて対応していくことが必要です。

 

発達障害と吃音の関係

これまでの研究では、吃音がある子供の割合は、上記の発達障害を持つ子の方が、発達障害を持たない子よりも多いことが知られています。

例えば、一般的には、発達性吃音の発症が5%と言われて言われるのに対し、ADHDを持つ子は平均11.6%、学習障害を持つ子は平均15.4%といわれています。

発達障害と吃音を併せ持つ場合の取り組み

発達障害と吃音を併せ持つ場合、発達障害の特性に応じて、周囲の支援や対応が必要です。また、大人の場合には、自分の特性に合わせて対応していくことが大事になります。

発達障害ゆえの困難さがある場合、当事者ができることと、できないことを理解した上で、吃音への支援や改善への取り組みを行なっていくことも大事です。

上記にも述べましたが、「普通」と「発達障害」の間の境界線を引くことはとても難しいです。特性が見られたとしても、一般社会の中で日常生活を送っていくことになります。

また、主な発達障害の傾向があっても吃音の改善が顕著に見られる場合もあります。

専門家の支援を受けたり、自分でも工夫をしたり、社会生活を楽に営めるようにそれぞれの課題に合わせて具体的な対応を行いながら取り組んでいくのが良いでしょう。

 

まとめ

吃音は発達障害の中に含まれます。但し、吃音の症状があっても、その他の発達障害の症状がない人も多いです。また、定義上の発達障害に含まれない吃音の人もいます。

発達障害とは、脳の働き方の特性により、「特定の機能が十分に働かないこと」です。発達障害のある人は、ない人に比べて、吃音を併発する確率が高いです。

吃音と発達障害について、特性に応じて適切な対応を行っていくことが大切です。

  • この記事を書いた人

畦地 泰夫

東京吃音改善研究所代表。公認心理師。国際流暢性学会(IFA)会員。日本吃音流暢性障害学会会員。日本コミュニケーション障害学会会員。1人ひとりに合わせた吃音改善を掲げ東京吃音改善研究所を設立。吃音症、社交不安障害のカウンセリング実績は1万回以上。

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