吃音は遺伝するのでしょうか?
吃音がある人の親も吃音であったり兄弟にも吃音があるため「吃音は遺伝するのか?」という疑問を持つ人はたくさんいます。この記事では、吃音の遺伝に関することについて現在わかっている範囲でお伝えしていきます。
もくじ
吃音は遺伝するのか?
※写真はイメージです。
アメリカの吃音研究者ヤイリ博士は、吃音がある人の家族歴(血縁者に吃音の人がいる)は、30~60%と推定しています。
逆の視点から見ると、吃音がある人のうち、40~70%は家族に吃音の人がいないということになります。
また、他の研究報告によると、吃音がある人の子供が吃音になると、回復しない場合が15%という結果が出ています。そのことから計算すると、子供が6~7人できたら1人が遺伝するといえます。
余談ですが、この記事を書いている私は吃音があり、母親も吃音があります。3人兄弟ですが、兄と次男である私が幼少期から吃音になりました。私の場合には、確率としては高いということになります。
体質面だけ見ても、発症する要因と発症後に吃音が持続する要因とがあるとも考えられています。
体質的要因を持っているすべての人が吃音を発症するかどうかというと、そうではありません。吃音になる要素を持っていても、吃音が発症しない人もいます。
遺伝についてわかっていること
近年の吃音の遺伝に関する研究では、一卵生双子は二卵生双子よりも二人とも吃音である場合が多いため、吃音には遺伝学的要素が強く示唆されています。
しかし、一卵生双子の場合でも、一人が吃音で、一人が吃音でない場合もります。そのため、遺伝子だけが吃音の原因とは言い切れないのです。
これまでの研究による報告で差異はありますが、推定される遺伝率の多くは0.8を超えています。
参考文献
Frigerio-Domingues C, Drayna D.(2017)
Genetic contributions to stuttering: the current evidence.
遺伝子について
2010年以降、吃音の遺伝子研究においてGNPTAB,GNPTG,NAGPA,AP4E1の4つの遺伝子が同定されました。
それに伴い、遺伝子組み換えの吃音マウスの研究も進められています。
Gnptab変異のノックインマウスの発声を比較した研究では、遺伝子変異のないマウスに比べて遺伝子変異のあるマウスは発声量が減少していたことがわかりました。
発声行動以外においては、差がなかったこともわかっています。
引用文献
Barnes TD, Wozniak DF, Gutierrez J, Han TU, Drayna D, Holy TE.(2016)
A Mutation Associated with Stuttering Alters Mouse Pup Ultrasonic Vocalizations.
吃音を持つ人の遺伝子保有の有無により言語療法の治療効果が示唆された研究もあります。
この研究は、吃音のある人で吃音の原因遺伝子(GNPTAB、GNPTG,NAGPA,AP4E1のいずれか)を保有している人たち51名と、遺伝子変異を特定されていない人たち51名がそれぞれ吃音改善のための言語訓練を行い、結果を比較するというものでした。
吃音の原因遺伝子を保有している人たちの方が吃音が改善されたことを自覚する程度が小さかったというのです。しかし、客観的に見た吃音頻度の目立った違いは認められませんでした。
引用文献
Frigerio-Domingues CE, Gkalitsiou Z, Zezinka A, Sainz E, Gutierrez J, Byrd C, Webster R, Drayna D.(2019)
Genetic factors and therapy outcomes in persistent developmental stuttering.
今後さらに遺伝子に基づいた研究は発展していくと考えられます。
まとめ
吃音には遺伝学的要素が強く示唆されていますが、遺伝子だけが原因とは言い切れません。
また、吃音になる遺伝的要素を持っていても吃音が発症しない人もいます。
2010年以降、吃音の遺伝子研究においては、GNPTAB,GNPTG,NAGPA,AP4E1の4つの遺伝子が同定されました。