吃音は、脳の機能に問題があるから起きるのでしょうか?吃音とは脳の障害なのでしょうか?
この記事では、吃音と脳についてお伝えします。
もくじ
吃音と脳の構造の関係
吃音がある人の脳の構造について、現在以下のようなことがわかっています。
・脳内の伝達がスムーズにできていない
吃音が起きている際、「脳内での情報伝達」がスムーズにできていないことが知られています。
吃音研究者Caiらが、アメリカ人の成人吃音者を対象に行った研究において、吃音のある人は、言語に関わる脳の領域において、ネットワークの接続不備が起きていると述べています。これは、脳の領域間をつないでいる神経の束の接続がうまくいかないということです。
他にも、聴覚に関わる脳の領域において、脳の構造(体積)に違いが見られることもわかっています。
・脳の損傷により吃音が起きている場合
脳の損傷により起きる吃音を神経原生吃音といいます。これは、一般的な吃音(発達性吃音と呼ばれる子供の頃からの吃音)や、ストレスなどによる心因性吃音とは異なります。明らかに脳の損傷の影響で起きるものです。
神経原生吃音については、こちらの記事をご覧ください。
記事:獲得性神経原生吃音の特徴について
脳の機能について
脳の機能に関わることについては、以下のことがよく知られています。
・話す時に脳の聴覚野の活動が低下する
聴覚野は、聴覚(聞こえる)情報の受け取りを行う部分です。いくつかの脳画像による研究によると、吃音のある人は、どもっているときに、聴覚フィードバックが機能していない可能性があるとしています。
聴覚フィードバックとは、人が話すときに自分の声の高さや強さを調整するときに使う機能です。吃音がある人は、どもっている時に、この機能を使っていない可能性があるというのです。
・話す時に右半球が優位になる
吃音のない人の多くは、話す時に脳の左半球が優位に働きます。それに対し、吃音のある人が話すときには、右半球が優位になることが、脳波による研究からわかっています。
また、吃音のある人が吃音改善の為の発話訓練を行った後、どもっている時に見られていた「右半球の優位な活動」が、減少していることがわかりました。
・扁桃体の反応
脳の大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)と呼ばれる領域は、記憶、欲求、喜怒哀楽などの感情に関与していることが知られています。
人が恐れを感じるときに、大脳辺縁系にある扁桃体(へんとうたい)の機能が働きます。アメリカのアイオワ大学の研究では、人間は扁桃体を損傷すると、恐怖を感じなくなることが実証されています。
体質的に過敏な人は、吃音の恐れを感じる扁桃体への反応が、より強くなることが考えられます。その場合「どもることへの抵抗、どもることへの恐れ」が増えるほどに、扁桃体は反応します。
つまり、吃音が起きそうなとき、自分の身に危険を知らせる危険アラームが、より活発に脳の中で鳴るということです。
以前私がお世話になった、アメリカのスピーチセラピスト、ウィリアム・パリー氏は、体の中に起きるヴァルサルヴァ反射(息が止まり筋肉が緊張する状態)と吃音の関係についての仮説を立て、「どもってはいけない」という考えを持つほど、扁桃体が反応しヴァルサルヴァ反射が起きることを強く述べられていました。
脳の相違について
研究で示された脳の相違は、吃音の原因との関連も考えられますし、内容によっては、何年もの間どもり続けたことによる脳の反応とも考えられます。
これらの研究は研究者数が少ないことなどから、研究結果の判断には慎重さが必要です。今後ももっと多くのことがわかっていくでしょう。
まとめ
吃音がある人の脳の構造、機能にはいくつかの特徴があります。これらは、吃音の原因との関連も考えられますが、そうではないかもしれません。今後も研究が進むにつれ、もっと多くのことがわかっていくでしょう。