仕事・就職活動

吃音がある人の仕事の実情【みんなどうやって仕事をしているのか?】

吃音症がある人は仕事で悩むことが多い

 

どこの国でも100人に1人と言われる吃音症。

吃音がある人は学生時代には主に発表や音読など学校でやるべきことで悩むことが多いですが、大人になると仕事中の電話やコミニケーションで悩むことが多くあります。

仕事で吃音が出て困っている人は、どうやって仕事をしているのでしょうか?

この記事では「吃音がある人の仕事の実情」と「仕事をする上で吃音をどうしていけばよいか?」について考えていきます。

 

仕事と吃音についての調査から見えること

過去にアメリカで仕事と吃音についての調査が行われたことがありました。

この調査では、就労している18歳以上の吃音を持つ人232名に吃音と就労についての質問がなされ、

「吃音は雇用と昇進の機会を減らす」に同意を示した人は全体の70%

「吃音は仕事のパフォーマンスに時々支障をきたす」と回答した人は全体の69%

「吃音があるために実際に仕事や昇進を断った」と回答した人は全体の20%

との結果になりました。

この調査結果には、教育を受ける機会や人種による差異の影響なども考えられはしますが、吃音のある人が「吃音は就労に悪影響を与えている」と考えていることが示唆されています。

 

引用文献

Klein JF, Hood SB.(2004)

The impact of stuttering on employment opportunities and job performance

 

また、日本でも成人の吃音がある人に向けた生活実態調査があります。

10代から70代の吃音がある人271名に向けて行われた調査では、

「就活時に比べて就労後に吃音の苦労が増えたかどうか」の質問において、

「就労後に苦労が減った」と答えたのは41名

「変化なし」と答えたのは92名

「就労後に苦労が増えた」と答えたのは120名

との結果が出ています。

この調査において、吃音による苦労場面の割合は電話が96名と最も多く、続いて特定の言葉、雑談・日常会話、プレゼン発表、朝礼となっています。

引用文献

飯村大智(2016)

生活実態調査による成人の吃音者の就職・就労に関する研究

いずれにしても吃音がある人にとって仕事の場面で話すことに苦労することが多いため、仕事を選ぶときにも吃音の影響を受けることは多くあります。

 

吃音がある人に向いている仕事、向いていない仕事はあるのか?

吃音がある人にとって働きやすい傾向は確かにあります。一般的には、比較的コミュニケーションの少ない仕事は働きやすい傾向はあると考えられています。

症状が重度であれば話す回数が少ない仕事の方が働きやすいかもしれませんが、症状に波のある人はそうではありません。

そのため、話すことが少ない仕事だけが必ずしも良いのではなく、たとえ営業のような話す仕事でも話す自由度が高いと自分のペースで話せることがあることもあります。

また、職場の雰囲気が良く働きやすい環境にいると、吃音があまり気にならなくなる人もいます。

営業でも自分のペースで話せば大丈夫な人がいる

 

話す状況によって話しやすさが変わる人もいます。

例えば、授業中は吃音のことを恐れている大学生でも、塾講師で小学生に勉強を教える時には比較的吃音が気にならなくなることがあります。

塾で勉強を教えるときには楽に話せる

この場合は、相手よりも優位な立場にいる時には話しやすくなることがあったり、自由度が高い会話の状況では吃音を上手く対処できる人もいるのです。

もちろん人それぞれ吃音の出る場面や症状の程度が異なるため、一概には言えません。専門性の高い職業は比較的話しやすいと思われがちですが、誰もが同じように楽に働けるわけではありません。

医療系専門職の報告会で困ることがある

吃音に向いている仕事があるかと職業だけで判断するのは本当は難しいのです。人と話さない仕事だと思っていて入社しても、実際に働いてみると朝礼や小単位のミーティングなどがあったということもあります。

製造業の朝礼で困ることがある

吃音が仕事に与える影響度合いは、職場環境や任された業務内容によっても大きく変わります。

職業選びの基準は人により異なります。できるだけ自分のやりたい仕事を優先し、その上で現実的なリスク対策をしていくことが後悔しない職業選びなのではないでしょうか?

 

吃音を抱えながらみんなどうやって仕事しているのか?

 

吃音の症状や働いている環境によって異なりますが、吃音を持つ人たちが苦手とするのは以下のような場面があります。

 

電話応対

電話を受ける時に会社名でどもってしまい、周囲の人に聞かれてしまう

 

朝礼

朝礼で自分が話す番が月に一度回ってくることを何日も前から考えてしまう

 

名刺交換

取引先と名刺交換をする際に、自分の名前がどもってしまう

 

大勢の前で話す

プレゼンや会議で自分の番が来ることを恐れてしまう

 

これらの悩みは、吃音を持つ多くの人が抱えていらっしゃる代表的な悩みです。
また、悩みに対する解決策は一つではないため、それぞれの状況に応じて対策を考えていく必要があります。

 

吃音がある人がしている仕事の実情【26の職業例】

上記にも紹介しましたが、吃音があっても各職業に従事している人は様々な対策をし仕事をしています。

東京吃音改善研究所では、成人で吃音を持つ20代〜30代の男女26名にご協力いただき、どのような場面で困ることがあるかをインタビューさせていただきました。

インタビューをもとに各職業の主な業務内容・吃音で困る場面・当事者の現状をご紹介します。

 

職業例1:商社の経理

会議場面

主な業務内容

会社の会計に関する経理業務。経理ルールの策定、決算書の作成、報告書の作成など多岐に渡ります。

吃音で困るかもしれない場面

電話、プレゼンテーション、会議での発言

当事者の現状

吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている
言えそうな自分のタイミングで話すようにしている
上司に相談したこともある など

 


職業例2:市役所職員

外部との名刺交換

主な業務内容

窓口業務(相談業務)、広報、イベントの運営など、部署が変わるたびに仕事内容が変わるため新しいことをたくさん覚える必要があります。

吃音で困るかもしれない場面

電話応対、相手から説明を求められた時、名刺交換 など

当事者の現状

電話が鳴りそうなときは席を外すことがある
上司に相談している
言えそうな自分のタイミングで話している など

 


職業例3:銀行員

信用金庫

主な業務内容

銀行員の主な業務は、個人または企業への営業を行うことです。窓口や訪問での営業は、個人営業と法人営業があります。

吃音のリスク

社内研修、電話応対、挨拶 など

当事者の現状

他の人にはわからないように言葉をうまくごまかしている
言えそうな自分のタイミングで話している など

 


職業例4:建築会社事務

工程予定表

主な業務内容

建設会社は建築や土木工事に関する仕事です。事務職は、電話応対・来客への応対・決算処理や請求書の作成などを行います。

吃音のリスク

電話応対、現場での挨拶、会議 など

当事者の現状

言葉をにごしてごまかすことがある
上司に相談している
言えそうな自分のタイミングで話している など

 


職業例5:ホテルのフロント

地方のホテルフロント

主な業務内容

宿泊予約の管理、お客様対応を中心に行う仕事です。

吃音のリスク

電話応対、お客様への呼びかけ など

当事者の現状

言えそうな自分のタイミングで話している
吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている
自分なりのテクニックを使うことがある(息を吸ってから話したり、相手にわからないようにタイミングをとって話す) など

 


職業例6:セールスドラーバー

お客さんとの会話

主な業務内容

ルート配送、法人への営業、荷物の集荷などを行います。

吃音で困るかもしれない場面

相手から説明を求められた時、電話応対 など

当事者の現状

どもりながら話している
自分なりのテクニックを使うことがある(息を吸ってから話したり、相手にわからないようにタイミングをとって話す)
吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている

 


職業例7:大手メーカーの開発業務

資料の作成

主な業務内容

新技術開発のための実験、データ分析、客先への訪問などを行います。計画に基づき、比較的自由に仕事ができる環境もあります。

吃音で困るかもしれない場面

電話応対、プレゼンテーション、会議 など

当事者の現状

電話が鳴りそうなときは席を外すことがある
言葉をにごしてごまかすことがある
言葉を省略する(最初の言葉を言わないなど)ことがある など

 


職業例8:法人向け不動産営業

法人営業

主な業務内容

不動産会社に対して商品の案内を行う仕事です。

吃音で困るかもしれない場面

電話応対、プレゼンテーション(社外)、取引先への訪問時に名乗る など

当事者の現状

多少どもりながら話している
吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている
デスクの電話を使わず席を外してスマホ、携帯からかけることがある など

 


職業例9:システム開発

プロジェクトの資料作成

主な業務内容

WEBアプリケーションの開発や各種企業の業務をシステム化する仕事です。プロジェクトごとにチームで仕事をします。

吃音で困るかもしれない場面

業務報告、会議での発言、顧客との面談 など

当事者の現状

どもりながら話している
吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている
言葉を省略する(最初の言葉を言わないなど)ことがある など

 


職業例10:マーケティング・企画

企画のプレゼン

主な業務内容

プロモーションの企画・運用、市場調査などを行う仕事です。

吃音で困るかもしれない場面

相手から説明を求められた時、プレゼンテーション(社内) など

当事者の現状

デスクの電話を使わず席を外してスマホ、携帯からかけることがある
プレゼン資料に苦手な言葉を使わないようにしている
電話よりもできるだけメールを使うようにしている など

 


職業例11:旅行代理店

旅行代理店勤務のMさん

 

主な業務内容

お客さんに旅行商品を提案し予約の手配を行うことです。ツアープランナーと呼ばれる国内外旅行の企画をする仕事もあります。

吃音で困るかもしれない場面

電話応対、相手から説明を求められた時 など

当事者の現状

言葉をにごしてごまかすことがある
吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている
回避(わからないフリをしたり、忘れたフリをして苦手な言葉を言うことを回避する)をすることがある など

 


職業例12:家電販売

家電量販店

主な業務内容

お客様に商品の説明やアドバイスをしたり、品出しや在庫管理を行う仕事です。レジも行うことがあります。

吃音で困るかもしれない場面

店内放送、自分から相手に声かけをする時、朝礼 など

当事者の現状

吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている
言葉を省略する(最初の言葉を言わないなど)ことがある
自分なりのテクニックを使うことがある(息を吸ってから話したり、相手にわからないようにタイミングをとって話す) など

 


職業例13:美容師

パーマ液の塗布

主な業務内容

お客さんの髪を切る仕事です。最初はアシスタントから始まります。お店の清掃やお客様の予約対応なども行います。

吃音で困るかもしれない場面

あいさつの唱和、電話応対 など

当事者の現状

言葉を省略する(最初の言葉を言わないなど)ことがある
吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている
同僚や先輩に相談している など

 


職業例14:臨床検査技師(病院勤務)

検査中の様子

主な業務内容

医師の指示に従い、必要な検査を行う仕事です。検査の結果を医師に報告します。

吃音で困るかもしれない場面

挨拶、相手から説明を求められた時

当事者の現状

言えそうな自分のタイミングで話している
自分なりのテクニックを使うことがある(息を吸ってから話したり、相手にわからないようにタイミングをとって話す)

 


職業例15:システムエンジニア

他部署からの依頼を検討

主な業務内容

顧客へのヒアリングを行い、システムの開発(設計やテストなど)を行う仕事です。

吃音で困るかもしれない場面

電話応対、自分から相手に声かけをする時  など

当事者の現状

言葉を省略する(最初の言葉を言わないなど)ことがある
回避(わからないフリをしたり、忘れたフリをして苦手な言葉を言うことを回避する)をすることがある
デスクの電話を使わず席を外してスマホ、携帯からかけることがある など

 


職業例16:建築設計

工事中の現場

主な業務内容

建築設計は、意匠設計(建物の外観や内部のデザイン)・構造設計(建物の中身である構造の設計)・設備設計(電気、配管などのインフラの設計)の3つの業種があります。

施主や担当者とのコミュニケーションも重要な仕事です。

吃音で困るかもしれない場面

自分から相手に声かけをする時、高圧的な相手との会話 など

当事者の現状

どもりながら話している
言葉をにごしてごまかすことがある
電話よりもできるだけメールを使うようにしている など

 


職業例17:プログラマー

プログラム画面

主な業務内容

WEBアプリの開発、スマホアプリの開発などコンピューターが実行するプログラムを構築する仕事です。

吃音で困るかもしれない場面

業務報告、相手から説明を求められた時

当事者の現状

吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている
言葉をにごしてごまかすことがある
電話が鳴りそうなときは席を外すことがある など

 


職業例18:WEB制作

web制作

主な業務内容

WEBサイトの制作を行う仕事です。制作の進行やスタッフに指示を出すWEBディレクターやWEBサイトのデザインを行うデザイナーなど、制作にはそれぞれの役割があります。

吃音で困るかもしれない場面

電話応対、自己紹介、業務内容の説明 など

当事者の現状

吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている
言えそうな自分のタイミングで話している
電話よりもできるだけメールを使うようにしている など

 


職業例19:介護士

利用者さんのリハビリ

主な業務内容

主に高齢者利用者さんの介護を行う仕事です。施設内業務はもちろん、利用者さんの家族との関わりも大事な仕事です。

吃音で困るかもしれない場面

引継ぎ、少人数でのミーティング、放送 など

当事者の現状

どもりながら話している
上司に相談している
吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている
など

 


職業例20:医療事務

患者さんのデータ入力

主な業務内容

受付業務、診療報酬明細書の作成などを行う仕事です。小さな診療所、大きな総合病院など規模もそれぞれ異なります。

吃音で困るかもしれない場面

電話応対、患者さんを呼びかけする時

当事者の現状

言えそうな自分のタイミングで話している
言葉をにごしてごまかすことがある
言葉を省略する(最初の言葉を言わないなど)ことがある など

 


職業例21:研究・開発職

同僚と歩く

主な業務内容

実験、解析、データの収集、検証などを行う専門性の高い職種です。

吃音で困るかもしれない場面

プレゼンテーション(社内)、少人数でのミーティング など

当事者の現状

プレゼン資料に苦手な言葉を使わないようにしている
自分なりのテクニックを使うことがある(息を吸ってから話したり、相手にわからないようにタイミングをとって話す)
話す順番を入れ替えて話しやすくすることがある  など

 


職業例22:製造業

工場内の様子

主な業務内容

製品や商品の製造に携わる仕事です。日常生活用品や食品、機械など分野も様々あり、製造・組み立て・加工・点検・生産管理など部門によって役割も異なります。

吃音で困るかもしれない場面

朝礼、あいさつ、少人数でのミーティング、伝達事項 など

当事者の現状

どもりながら話している
回避(わからないフリをしたり、忘れたフリをして苦手な言葉を言うことを回避する)をすることがある
上司に事情を話し朝礼を免除してもらうようお願いしている

 


職業例23:現場監督

工程の管理

主な業務内容

建築現場、土木現場などで作業を管理する仕事です。現場の管理はもちろん職人・作業員とのコミュニケーションも大事な仕事です。

吃音で困るかもしれない場面

職人・作業員との会話、業務内容の説明、会議での発言  など

当事者の現状

言葉をにごしてごまかすことがある
どもりながら話している
話す順番を入れ替えて話しやすくする など

 


職業例24:小学校教員

教員のSさん

主な業務内容

生徒に授業をすること以外に学校行事の準備や運営などたくさんの業務を抱えており、学校の先生はとても多忙です。

吃音で困るかもしれない場面

職員会議、型式ばった場面での司会、電話応対  など

当事者の現状

言えそうな自分のタイミングで話している
吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている
話す順番を入れ替えて話しやすくすることがある など

 


職業例25:不動産営業

空室の資料

主な業務内容

不動産物件を販売したり、賃貸物件を仲介する仕事です。販売の場合、テレアポや飛び込み営業もあります。賃貸物件の仲介は店舗に常駐し、来店されたお客さんに物件を提案したり案内したりします。

吃音で困るかもしれない場面

電話応対、朝礼、お客さんとの会話 など

当事者の現状

デスクの電話を使わず席を外してスマホ、携帯からかけることがある
給湯室に行って電話をすることがある
言葉をにごしてごまかすことがある など

 


職業例26:経営者

経営者のYさん

主な業務内容

経営に関する業務全般。事業の推進、資金繰り、従業員の育成など会社を経営するために様々な視点で会社を運営・成長させていきます。

吃音で困るかもしれない場面

会議、スピーチなど主に中心者として話す場面。その他、規模により異なります。

当事者の現状

吃音を隠すための工夫(言葉の言い換えや他の言葉を挿入する間を使って話す など)をしている
言えそうな自分のタイミングで話している
自分なりのテクニックを使うことがある(息を吸ってから話したり、相手にわからないようにタイミングをとって話す)
どもりながら話している など

 

ここまで様々な業界のお話を伺いましたが、業界だけで吃音の苦労の多さが決まるとは言えません。

そのため、吃音のリスクのことばかりを考えて職業選びをしてしまうとキリがないです。

話さなくて良い仕事は基本的にはほとんどありませんし、部署や仕事内容が変わることもあり仕事に変化はつきものだからです。

 

仕事中の吃音で困った時にみんなが行っている6つの方法

基本的には自分がやりたい仕事を中心に考え、リスクに備えて行動していくことが大事です。

インタビューさせていただいた26名の方に、吃音で困ったときの対策について尋ねたところいくつかの共通項がありました。それらを以下ご紹介します。

 

1. 上司・同僚に相談すること

電話が苦手な場合など、事前に上司・同僚に相談し配慮をお願いすることで仕事が楽になります。

職場環境によってはカミングアウトしづらい場合もありますし、恥ずかしいからしたくない人もいます。
無理にカミングアウトする必要はありませんが、できる場合には挑戦してみてください。

カミングアウトについてはやり方が大事ですので、このあとで説明します。

 

2. 吃音の工夫(言い換えや言葉を挿入するなど)

これまであなたが吃音を上手に工夫をしてきたように、苦手な言葉を言い換えたり言いづらい言葉の前に他の言葉を挿入したりして対処できるのであれば、そのように対処していくことも選択肢の一つです。

吃音症は日常生活に上手に適合する性質を持っているため、なんとか対処できるのであればそのやり方を続けていけば良いのです。

しかし、何らかの場面や行動を回避すると不安や恐れがさらに強まります。そのため、できる限り回避はしないほうが良いです。

あなたなりにできるところまで工夫をしてみて、どうしても厳しくなった時には吃音の治療を受けることなども考えてみると良いです。

 

3. 日頃の人間関係を作っておくこと

職場の人との円滑な人間関係を作るメリットは、話しやすくなったり困った時に助けてもらえたりすることです。

少しくらい吃音が出ても周囲の人がサポートしてくれることがあります。

 

4. 資料の作成・活用を工夫する(プレゼン、会議の時の対処として)

プレゼンや会議など注目を集める場面でどもってしまう経験は、恥ずかしい思いをしますし大変つらいものです。

できるだけ吃音で失敗しないように、あらかじめ資料に伝えるべきことを書き込んだりプレゼンの画面に映し出したりして、言えない時にはうまく対応できるようにすることも対策の一つです。

 

5. メールなど他のコミュニケーションツールの活用

コミュニケーションは話すこと以外にも、メールやチャットで対応できることがあります。メールやチャットを多用する職場環境では、それらのツールを上手に活用していくことも良いです。

 

6. 業務内容をしっかり把握して自信をつける

新入社員の時には仕事に慣れていないため、緊張する機会が増えます。そもそも業務内容に対する知識の不足や自信のなさが緊張や不安に結びつくことがあります。

自分の与えられた仕事に対して少しでも深い知識を身に付けていくことで、自信がつきますし、その自信がコミュニケーションにも影響していきます。

 

吃音をカミングアウトすべきか?

吃音があることを打ち明けることで、仕事がしやすくなる場合にはカミングアウトすることをお勧めします。

できれば入社時の面接でカミングアウトする方が良いですが、「カミングアウトしたら落とされるのではないか」と考える人もいます。

ちなみに、以前に転職エージェントを経営する方に吃音と就職活動についてお話を伺ったところ、「できれば入社時に話した方が良い」とおっしゃっていました。

必ずしたほうが良いわけではないため、状況に合わせて判断したいところです。

 

カミングアウトは、やり方が大事

もちろん入社してからでも大丈夫ですが、吃音のことを上司や同僚に伝える際には、伝え方が大事です。

吃音のことを打ち明けるのはとても勇気がいることです。そのため、当事者としては打ち明けることで頭がいっぱいになってしまいます。

しかし相手からすると、「吃音のことで何を困っていて、どうして欲しいのか?」を知りたいのです。

相手に吃音のことを話す際には、以下の点に注意しましょう。

・どんなことで困っているのかを具体的に伝える

・どういう要望があるのかを具体的に伝える

すでに述べたのように、打ち明けるにはとても勇気が要ります。できるだけ相手にわかりやすく伝えるために、伝えるべきことを事前に紙に書いておくなど準備をすることも大事です。

 

上司にカミングアウトした人のエピソード

入社当時にカミングアウトをした山瀬さん(仮名)にお話を伺いました。

山瀬さん(仮名)は新卒で保険会社に入社しました。

子供の頃から吃音があり、学生時代は工夫をしながらなんとかやってきたそうです。

研修の時から吃音で困るようになり、配属後に上司に打ち明けました。他の人にわからないように、面談の際に伝えたそうです。

山瀬さん
上司に「私、吃音がありまして電話応対の時に言葉が詰まってしまうことがあります」と伝えたら、

上司が、「大丈夫だよ」と言ってくれたので、とりあえず気持ちの面では楽になりました。

 

山瀬さんのようにカミングアウトできる人もいますが、恥ずかしくてしたくない人もいます。無理にする必要はないため、自分の状況に合わせて行っていけば良いのです。

 

吃音に悩んだ結果、転職する人もいる

就活の面接をなんとかクリアし、せっかく入社した会社でしばらくは吃音に悩まされることなく過ごせていた人でも、業務内容が思ったよりキツかったり、役職や部署が変わったことにより吃音に悩み始めることがあります。

吃音の悩みが強くなると「このままだと仕事どころではない」と考え、転職する人もいますが、転職をして良かったかどうかはその人によって異なります。

環境が良くなった場合や社名が言いやすくなったりして転職して良かったという人もいれば、転職直後は良かったけどしばらくするとまた前職と同じように吃音で悩み始める人もいるのです。

 

最終的に障害者手帳を申請する人もいる

障害者手帳(イメージ画像)

障害者手帳を取得することができた場合、障害者枠として雇用してもらうことができます。

仕事中に吃音のことを気にしなくて良い以外のメリットはそこまでありませんが、障害者枠として雇用されれば悩みはなくなります。

健常者として雇用する選択肢を捨てることになるため、障害者手帳を取得すべきかは慎重に考える必要があります。

できる限り吃音の改善を目指したり、カミングアウトして相談するか、健常者のままで仕事をしていく方が良いと考えてる人の方が多いです。

 

あなたの吃音はどのような状態なのか?

そもそもあなたの吃音は、どのようなタイプなのでしょうか?

本来、吃音には幼少期から発症する発達性吃音と、ストレスなどで高校生以降に起きる心因性吃音、脳の損傷などによる神経原生吃音があります。

幼少期から吃音を抱えてきた人にとっては、学生時代のトラウマ経験などもあり苦手な言葉や場面を多く持っていることがあります。

幼少期に吃音があっても学生時代はほとんど困ることはなかった人は、社会人になってからプレッシャーが増え症状が再燃することもあります。

いずれにしてもお仕事で吃音の悩みを抱える人には、人それぞれ吃音のタイプ・背景があります。

 

吃音はだんだんと進展します

吃音はだんだんと進展することが知られています。

例えば、症状が出始めたばかりの頃は単にどもっているだけの状態ですが、その後に苦手な言葉を強く意識するようになったり話すことを避けたりするようになります。

そのため、症状が少ないことが軽減しているわけではありません。

例えば、苦手な言葉を言い換えたり苦手な場面を避けたりしているうちに、周囲から見たらほとんど吃音がないように見えますが、本人の中では吃音に対する恐れは持続していることがあります。

 

仕事上での吃音に悩んだことを機に、吃音の治療をする人もいる

社会人になって吃音に悩んだことを機に「この先もずっと吃音に悩むは嫌だ」と考え、吃音の治療をする人もいます。

しかし、吃音の治療は誰もが同じようによくなるわけではありませんし、時間や費用もかかりますので、それらを踏まえた上で取り組むことが望ましいです。

この記事は、仕事と吃音という大きなテーマで書かれています。当たり前ですが一人一人状況も異なるため、吃音への対処はより自分の状況を現実的に考えて行うべきです。

このまま吃音で悩み続けて職業や行動を制限されることから解放されたいと思う人は、吃音を改善することで吃音の症状が減れば、仕事がやりやすくなることも多くあります。

また、どもりに対する否定的な認識」が強い人は、吃音への否定的な認識が減ることで、仕事のやりやすさが増すこともあります。

人生を長い目で見た時に、今のタイミングで吃音を改善させることで吃音の不安から解放され、今までできなかったことに挑戦することができるようになります。

 

治療法はあるのか?

大人の吃音に対しても治療する方法はあります。よく知られているものは言語訓練やカウンセリングがあります。

言語トレーニングは吃音が出づらい発声を使って、楽に話せる練習をします。

言語トレーニングを行う場合は訓練室だけで話せるようになっても意味はなく、実際の仕事の場面でスムーズに話せるようにならなければいけません。

カウンセリングを行う場合は、単なる気休めではなく実際に吃音の症状が軽減したり改善することが大事です。そのため一般的なカウンセリングでは吃音改善の成果が得られないことがあります。

 

社会人になってから吃音の改善に取り組まれた方の例

 

子供の頃からの吃音を克服された片山さん(仮名)40代女性

「これからは、今まで避けていたことに挑戦したいという気持ちになれました」

 

たくさんの方法を試していった森嶋さん(仮名)30代男性

「吃音の改善に取り組みましたが、その一つの方法が私にとっては特に効果がありました」

 

苦手な場面に対応できるようになった外山さん(仮名)20代女性

「吃音のメカニズムをしっかり説明して下さったことで少しずつでも改善されているのが目に見えて分かり、自分が変わっていくことを実感することができました」

 

すべての方が同じ方法で吃音を改善させることは難しいかもしれませんが、一人ひとりに合わせて適切な方法で改善を進めれば効果は上がります。

今後の人生も含めて吃音のことを考えていくならば、今のタイミングで吃音の改善に挑戦してみることも解決法の一つです。

様々な職業の人たちが吃音の改善に挑戦され、その後の働き方が変わっていかれます。あなたの不安を解消し少しでも自信を持っていただくためにお手伝いさせてください。

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吃音には進展段階があります。段階に合わせて吃音を改善しましょう。

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まとめ

吃音があっても、様々な分野でご活躍されている方々がいます。

吃音があっても仕事ができるかは、働いてみないとわからないこともたくさんあるため職業だけで判断できるものではありません。

多くの人が吃音があっても仕事をし、それぞれ自分に合った対策をしています。

  • この記事を書いた人

畦地 泰夫

東京吃音改善研究所代表。公認心理師。国際流暢性学会(IFA)会員。日本吃音流暢性障害学会会員。日本コミュニケーション障害学会会員。1人ひとりに合わせた吃音改善を掲げ東京吃音改善研究所を設立。吃音症、社交不安障害のカウンセリング実績は1万回以上。

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