話すときには吃音がある人も、歌を歌う時には基本的にはどもりません。これはなぜなのでしょうか?また、歌と吃音、音楽と吃音の関係について、以下お伝えしていきます。
もくじ
歌ではなぜどもらないのか
吃音があると、人前でスピーチをするときには、どもりが出やすくなりがちです。しかし、たくさんの人の前で、緊張していても、歌うときには吃音は出ません。それは何故でしょうか?
これには、まず、歌を歌うときと、話すときの脳の働きに違いがあることが考えられます。歌は、言葉を発するというよりも音程を取る行動です。音程を取ろうとすることにより、会話の時に比べて、言葉そのものに注意がいかないことが考えられます。
かつて私がお世話になったアメリカのスピーチセラピストは、「歌を歌う時には、ダイレクトに声帯振動に注意が向かうため吃音は出ない」とおっしゃっていました。
また、歌を歌うときには、話すときに比べて右脳がより働くと言われています。東北大学理学部生物学科の山元教授は、かつて、ダイアモンドオンラインのコラムで「左脳で脳卒中を起こし、言葉を失った患者が、歌を歌うことができた例」を紹介されていました。
但し、滅多にありませんが、歌う時も言葉が詰まる人がいます。
タイミング障害としての吃音
吃音は、タイミング障害であるとの考え方があります。吃音研究者バリー・ギターは、発話時のタイミングのことをわかりやすく以下のように例えています。
「交響楽団の指揮者が、どのパートがどのような速度やテンポで演奏するかを指示するように、脳は、発話にともなう音素や、音節、句の複雑なタイミングをうまく調整しなくてはならない」
そして、吃音研究者ケントは、「吃音のある人は、発話時に必要とされるタイミングパターンがうまく機能していない」ことを指摘しています。
吃音のある人が話す時には、このタイミングが合わない現象が起きていますが、歌う時はこの現象が起きないということです。
外のタイミングに合わせる方法
古典的なセラピーで、メトロノームに合わせて話すという方法があります。これは、自分の中ではなく、外にある要素(メトロノームの音)に発語のタイミングを合わせることにより、話しやすくなるのです。リズムなどにきちんと合わせて言葉を発するときには、外的タイミングのため、吃音が出にくくなるということです。
吃音がある人の中には、カラオケを歌うときに、ラップのパートやセリフを言う時には、どもるという人もいます。これは、リズムへの注意がきちんとできていないのかもしれません。
リズムではなく、音楽に乗っているから吃音が出ないのではないかと考える人はいますが、特に音楽に乗っていない時にも、歌い出しで吃音は出ないため、この考えは正しいとは言えないのではないでしょうか?
音楽と吃音の関係
歌を歌うことの開放感、音楽が持つ自己解放、など、音楽が私たち人間にとって、良い影響を与えるものだということは多く知られている通りです。
音楽療法などにおいては、精神的な不安を減らす効果もあります。もちろん、万人に効果があるかといえばそうでありません。なんらかの効果が現れる人もいるかもしれませんが、一部の人に限られるでしょう。
ボイストレーニングの効果
ボイストレーニングをすることにより、一時的に吃音が良くなることがあります。大きな声を出したり、発声練習だけを用いた方法は、古典的なセラピーではよくありました。
しかし、発声訓練のみで吃音の改善に取り組んだ場合、再発することがあるというのは、よくあります。
効果が一時的に終わってしまう理由としては、
・心理面も含む吃音の全体像を理解せずに「話し方」だけに焦点を当てていた
・一時的に注意を逸らしていただけだった
ということが考えられます。
歌うように話すテクニックもある
一部のセラピーで使われていますが、「歌うように話す」というテクニックもあります。効果の有無や、現実的にこのテクニックがどれだけ有効は別ですが、歌では吃らないという性質を使ったものです。
具体的には、話し出す際に、音階を取るようにして話す出すというようにする方法、話すフレーズ自体を歌うように話すという方法などがあります。
オーストラリアのミュージシャンMegan Washingtonさんは、吃音があることで知られています。彼女はTedに出演した際に、歌うときにはどもらないので、幼い頃の彼女にとって歌はとても有効な治療法だったと、どもりながらスピーチをしていました。
その時の映像は、こちら
まとめ
歌うときには、吃音が出ません。それは、話すときの脳の働きと歌うときでは違うこと、メロディに注意が行くことなどの理由が考えられます。また、ごく稀に、歌う時に吃音が出る人がいます。