「一時は良くなっていたのに、なぜ最近、どもりがひどくなったのだろう?」と得体の知れない吃音の波に悩まされている人も多いです。
吃音はなぜ悪化するのでしょうか?
この記事では、吃音の悪化要因についてわかりやすく説明していきます。気をつけることのできる範囲で、悪化要因を取り除いていきましょう。
もくじ
吃音が悪化する要因
吃音が悪化する要因は、環境の変化、ストレス、吃音の波など様々なことが考えられます。
例えば、以下のような場合があります。
【例1】30代 会社員 男性
以前はストレスなく過ごせる環境に身を置いていたため、吃音が出づらかった。しかし、新しい職場に移動したことにより、ストレスやプレッシャーが増えて吃音症状が出やすくなった。
【例2】10代 高校生 女子
普段の会話は大丈夫で、授業中の朗読が少し苦手だった。受験の面接があり、そこでうまく話せるかが不安になる。吃音のことを毎日考えるようになり、日常会話において、どもりが増えた。
ヴァン・ライパーの吃音方程式
吃音研究者チャールズ・ヴァン・ライパーは、吃音問題の大きさを以下のように定義しています。※後述の説明では、ヴァンライパーの方程式に、こちらで一部解釈を加えています。
吃音の問題が悪化する要因
以下の項目が増えるほど、どもりやすくなります。
罰 どもった時に、いじめ、からかいなど、まるで罰のようなものが加えられていること。または過去にどもった時に罰が加えられた記憶があることも含まれます。
不安 不安を感じている。吃音に関する不安はもちろん、その他の不安も影響していることもあります。
罪 うまく話せないのは自分が原因だとする考え方、罪の意識を持っている。
敵意 他人に対する敵意がある。
フラストレーション 話せないもどかしさなど、フラストレーションを感じている。
恐れ 話すことに対する恐れ、人や場面に対する恐れがある。
コミュニケーションストレス 話すときに心理的圧力を感じている。自分が注目されていると感じる状況(人前での発表、面接など)では、心理的圧力が増えます。
なめらかに話せる要因
悪化する要因が減り、なめらかに話せる要因が増えるほど、楽に話せます。
士気・意欲 話したい気持ちが強くある。頑張ろうとする意欲がある。相手より立場が優位である状況。
発話の流暢体験 たとえどもっても、自分がなめらかに話せたという体験。
吃音の波
吃音は、どもりやすい時期とそうでない時期の波があるのが特徴です。波については、今のところ、まだよくわかっていません。
ストレス・体調などによるもの
人にもよりますが、ストレスや体調などに影響されることもあります。また、上記にも示したように、吃音悪化要因の「不安」は、吃音に関すること以外の不安も関わってきます。
そもそも良くなっていなかった場合
吃音は本来進展していくものであり、工夫などにより目に見える症状が減っていただけで、そもそも幼少期からの吃音が治っていたのではなかったということがあります。
幼少期から発症する発達性吃音は、自然治癒することがよくあります。小さい頃に治っていない人の場合、症状がおさまっているように見えて、実は上手に日常に適合していただけということです。
以下、日常に適合するとはどういうことか説明します。
例えば、「どもりそうな時に、言いづらい言葉を言いやすい言葉を言い換える。」「言えない言葉を言わないようにする」「言葉の順序を言い換えて言いやすくして話す」などの工夫をして、どもらないで生活できていることです。
このような工夫をすることで、一見どもっていないように見えます。しかし、実はどもりに対して工夫をしているから、吃音が出ていないということです。年齢とともに吃音を上手に隠すのがうまくなっている場合、そもそも良くなっているのではなく、隠しているだけということになります。
自己認識について
私がかつてお世話になったアメリカ国立吃音協会のジョン・ハリソン氏は、「吃音は自己認識も関わっている」と指摘しています。自己認識とは、「自分で自分のことを、どのような存在だと思っているか」ということです。
人は成長するにつれて、たくさんの経験を積み、大人になっていきます。例えば、学生時代や就業後に役職などの「立場」を手に入れたり、結婚して夫や妻、親になるなど「役柄」が変わります。このように変化する自己認識が、時には吃音の症状が軽くなることにつながります。
ただ、この場合も吃音が治っているわけではなく、部分的に症状が残ったまま進展していることが多いです。
今まで吃音が出るような場面が少なかった
吃音症状が出てしまって困る場面に遭遇しなければ、どもることがあっても、楽に生活することができます。かしこまって何かを言わなければいけない場面がなかったり、周りの友人や一緒に住んでいる家族にも特に指摘をされないまま、上手に吃音をやり過ごしながら生活している人もたくさんいます。
新しい環境による影響
人は、新しい環境に身を置くと、多少なりともストレスを感じます。以下、新しい環境と心理的なストレスの影響による一例を説明します。
例えば、小学校低学年頃から吃音が出始めたものの、中学・高校とあまり吃音が出なかった方がいるとします。その人が、高校を卒業し大学に入って接客のアルバイトを始めます。そこで、お客様に「いらっしゃいませ」が言えないという状況に直面するという、吃音が気になるようになるという場合もあります。
これは、社会に出たことによる心理的な圧力を感じているとい要因が関連していると言えるでしょう。良い友人に恵まれたり、吃音を受け入れられている場合には、自然と楽に話せていている人もいます。そのような方でも、環境が変わり、ストレスを多く受けることにより、吃音症状が増えることがあるということです。
吃音研究者バリー・ギターは、吃音のある人にとって「不安感は吃音に関連する」と述べています。つまり、何かしらの不安感を抱いているときはどもりやすくなるということです。
また、「吃音がある人は、神経質または内気な気質の傾向ある」ことを示すいくつかの研究が報告されています。これは、ストレスを感じやすいということを意味します。もちろん吃音を経験するうちに感受性が高まってしまったということも考えられます。
気をつけていくこと
吃音の症状は多様ですので、上記のストレスと体調がすべての人に当てはまるわけではありません。ですが、吃音の特徴として、どもることを気にすることは、症状を強めてしまう一因となります。そのため、もし、吃音が悪化したという場合にも、できるだけ気にしない方向で考えていくことが良いです。
吃音の症状に囚われてしまい、「どもったらどうしよう」という意識が強くなりすぎると、そのことがストレスになり吃音がさらに悪化しかねないからです。吃音の症状だけにとらわれずに、自分のやりたいこと、やっていることの目的や意味に注意を向けることが大切です。
「そうは言っても、気になってしまう」という場合には、良いタイミングだと捉えて改善に向けての取り組みを行うのも良いでしょう。吃音を持つ方の多くは、吃音を抱えながらもそれぞれの場所で生きていることも多いです。治療をするかしないかの選択は個人の置かれた状況に合わせて考えていけば良いのではないでしょうか?
まとめ
吃音が悪化するのは、環境の変化、ストレス、吃音の波による場合があります。また、吃音は性質上、日常生活に適合しますので、良くなっていたのではなく、症状が隠れていただけということもあります。できるだけストレスを減らし、症状だけにとらわれないことが大切です。必要に応じて治療をするという選択しましょう。